大阪高等裁判所 平成12年(ネ)2511号 判決 2000年10月31日
控訴人 日本生命保険相互会社
右代表者代表取締役 伊藤助成
右訴訟代理人弁護士 織田貴昭
同 山下孝之
同 真田尚美
同 谷村慎哉
同 鈴木雅人
被控訴人 A野花子
他1名
右両名訴訟代理人弁護士 藤井伸介
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二事案の概要
一 事案の概要は、次項に当審における控訴人の主張を掲げるほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(原判決二頁一〇行目から九頁一一行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、四頁八行目の「提起保険特約」を「定期保険特約」と訂正する。)。
二 当審における控訴人の主張
1 廃疾保険制度の趣旨
(一) 廃疾保険制度の趣旨は、被保険者が廃疾状態となったときは、収入を得る仕事に就くことができなくなったり、廃疾の原因となった傷害又は疾病のため日常生活につき、特別の費用を要することにより経済的困難を生ずることが多いこと等に鑑み、被保険者が廃疾状態になった場合について生命保険契約の枠内で、加入者に対し、何らかの便益を提供しようということにある。
(二) そして、右約款においても右趣旨に鑑み、廃疾保険金の受取人は被保険者とされており、その変更はできない。
(三) 以上の趣旨からすると、死亡保険金受取人に対して死亡保険金が支払われるべき場合にまで、廃疾保険金の支払事由に該当するとすることは妥当ではなく、廃疾保険金が支払われるべき場合は被保険者が廃疾状態となって生存しており、少なくとも相当期間は生存が見込まれるような場合に限るとすることが合理的である。
2 約款にいう「中枢神経または精神に著しい障害を残し、終身常時介護を要するもの」の意義
(一) 廃疾保険金が支払われるべき場合は被保険者が廃疾状態となって生存し、なお少なくとも相当期間は生存が見込まれるような場合に限られる。このように解さなければ、ごく例外的な場合を除いて、全ての死亡の場合に、いずれかの時点で廃失状態の要件に該当することになってしまう。
(二) 右にいう「相当期間」という要件も、廃疾保険制度の趣旨、「終身」及び「障害を残し」との文言から常識的に読み取れる解釈であり、また、被保険者の症状等の経緯は様々であり、約款の文言として規定できることにも限度があるから、「相当期間」、「症状固定」といった表現を抽象的かつ曖昧なものというのは妥当ではない。
3 訴外太郎は、平成一〇年九月一八日の時点で、なお回復の可能性がなかったとはいえず、右時点の状態をもって、中枢神経または精神に著しい障害を残し、終身常時介護を要すると認定することはできない。
第三証拠関係《省略》
第四当裁判所の判断
一 当裁判所の判断は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点等に対する判断」欄(九頁末行から一七頁四行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 一一頁三行目の末尾に次のとおり付加する。
「右点につき、控訴人は、前第二、二、1のとおり主張する。約款一条二項(乙一号証の3)は、死亡保険金支払請求がなされていても、未だ死亡保険金が支払われていない場合に、廃疾保険金支払事由の発生に基づく廃疾保険金の支払請求がなされたときは、保険会社は、死亡保険金を支払わずに廃疾保険金を支払うことになると解すべきであり、死亡保険金支払事由と廃疾保険金支払事由が競合し、双方の支払請求がなされている場合、相続人に対する廃疾保険金の支払を優先する趣旨であると考えられる。また、右約款からすると、廃疾保険金支払事由と死亡保険金支払事由の双方が短期間の間に発生する可能性が十分にある場合もあることを前提としているといえるのであって、右約款制定者には、廃疾保険金支払事由の発生と死亡との間に「相当期間を経過する必要がある」とは考えていなかったことを推測することができ、本項(原判決九頁末行から一一頁三行目まで)で認定・説示した点に、右に言及した点も併せ考慮すると、控訴人の右主張は採用できないといわざるを得ない。」
2 一二頁一二行目の末尾に次のとおり付加する。
「右点につき、控訴人は、前第二、二、2のとおり主張する。しかし、右点については本項(原判決一一頁八行目から一二頁一二行目まで)で認定・説示したとおりであり、さらに、約款規定の表現が抽象的あるいは曖昧となる場合であっても、保険会社は、各保険金支払事由が認められる場合の具体的要件ないし支払事由なしとされる場合等を約款の別表等において細則で定め、あるいは取扱基準等を定めて、これらを約款の一部とすることにより右抽象的あるいは曖昧な約款規定の表現を補い、これらをも保険契約の合意内容とすることは十分に可能であるから、右主張は理由がない。」
3 一六頁一行目の「できず、」の次に「一〇月七日、泌尿器科に転科した後も、意識レベルの変化は認められず、」を、八行目の末尾に「右点につき、控訴人は、前第二、二、3のとおり主張する。しかし、本項(原判決一三頁五行目から一六頁八行目まで)で認定した事実を覆すに足りる証拠はないから、右主張は理由がない。」を、それぞれ付加する。
二 結論
以上のとおり、控訴人の主張はいずれも理由がないから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 辻本利雄 角隆博)
<以下省略>